第10回 国際開発学会全国大会「グローバリゼーションと人間の安全保障」
院生部会「院生−激論・強い政府VS弱い政府ガバナンスと人間の安全保障」報告
於
11月28日 14:00〜17:30
早稲田大学国際会議場22号館3階
当日の構成は以下の通り。第一部・基調講演、第二部・パネルディスカッション。
基調講演で学会タイトルの問題の具体例を題材として提出。それをもとに第二部に移る。
司会 小林 誉明(上智大学大学院)
基調講演者 史 念 ・ 伊藤 かおり(共に名古屋大学大学院)
パネリスト 松本 邦愛(早稲田大学大学院)・小野塚 貴子(早稲田大学大学院)
近藤 久禎(国立医療・病院管理研究所)・渡邊 規子(富士通総研)
吉中 麻樹(筑波大学大学院)・松本 宏昭(早稲田大学)
林 ゆり(上智大学大学院)
その他、大勢の聴衆者。
第二部
基調講演>
学会タイトルの問題を、途上・先進国両者の立場から眺める。以下2つの講演はその題材。
@「中国における外国直接投資導入政策と地域経済格差」史 念 (途上国側)
「1978年以来、中国で地域格差は拡大する一方。押さえていただきたい点は、格差自体が問題なのではなく、それが拡大すること。FDIは1992年のケ小平『南巡講話』が大きなきっかけとなり急増。その額は世界で2位。この2つの関係を研究では、ヘクシャ=オリーンモデルを使い、労働生産性の変化から産業構造変化があったかどうかを実証分析。説明変数としては、一人あたり土地・資本・GDPを使用。これらからベティクラークの法則が当てはまるのかどうかをFDIがある場合とない場合とで調べ、両者を比較。地域区分は29区のみ。前提として地域格差はすでにあるということ。」
「FDIのある場合とない場合とを比較したが、有意な違いはなかった、つまり、FDIと地域格差はあまり関係がなかったという結論。中国全体におけるFDIのウエイト自体があまり大きくなかったことが原因。内陸部にFDIが浸透していなかった。また産業構造転換にどのくらいの期間がかかるのかは不明。」
「政策的な提案としては、@政府が外資導入に関し、内陸部に優遇措置 A内陸部のインフラ整備」
質問は、具体的数字の照会・ODAとの関係・政策の人口移動への影響など。
A「地域主体型開発能力(CDI)を通じたエンパワメント」伊藤 かおり(先進国側)
「自治体よりも根本として『市民』自体が動くことをCDIと呼ぶ。その強みと弱みを提起していく。」
「様々なアクターが新たな1000年紀を前にして持つ共通課題はより良い豊かな世界。そのための手段として、CDIは様々なアクターの強みを併せ持ち、南北両世界にGood Impact。発祥はオランダのユトレヒト市。市民参加型のBest Type(マイケル・シューマン)。政府とNGOの両者の欠点(政府−情報公開・アカウンタビリティ、NGO−説得性・持続性・一般市民との関連性)を補うものとして有効。途上国にとってはBHNに基づく援助、先進国にとっては援助の情報量増大、独善的援助の防止という点で良い。日本でCDIが芽生えそうな好例が岐阜県高山市とインド・ソムニガサンガティ市との林業援助などの国際交流。この活動に対する日本のNGOと行政の考え方が非常に異なっている(実地インタビュー紹介)。」
「地域活性化→人づくり→人間の質的変化→主体的活動→エンパワメント。最後の→が大事。この起動点としてのCDI。行政コスト削減・Self-empowermentというメリット。ただ弱みもある。@言語的困難、Aファシリテイター・キーパーソン不足、B説得力不足、等々。」
「まとめ。国際協力にとって『北』が変わることが大事。南北の人々・地域による相互持続的なエンパワメントを目指すのが望ましい姿。それが人間安保につながる。」
質問は、理論から具体例までの詳細の照会・政策の実現可能性など。
<第二部 パネルディスカッション>
司会から、人間安保のイメージの説明。キーワードは『セーフティーネットとしての人間安保』。この概念と上述の基調講演を基に議論を進める。当日の第二部は、
@ パネリストからの各論提示、A 途上国(基調講演)での問題点と解決策、
B Aの解決策の実行主体は? C 先進国(基調講演)での問題点と解決策、
D AとCに共通課題を見出す(まとめ)、という流れで進行。
@パネリストからの各論提示
松本 邦愛(経済)
「経済だけではなく、福祉からも考えるべき。市場から阻害されている人、がキーワード。」
「解決策。市場まかせではなく、政府(中央・地方)の介入必要。特に雇用面。」
近藤 久禎(健康)
「健康の定義。病気・障害からFree。障害持ってても社会的生活を営めること。人間安保との関連は基本は生存権。病気からの脱出。格差の指標として、平均寿命や貧困のアウトプット。これらは経済指標からは分からない。」
小野塚 貴子(食糧)
「食糧安保とは全ての個人にとって健康的・生存的な食料を確保できる状態(世銀)。アクターとしてはこの戦略に大きな影響を受ける国家がなるべき。」
渡邊 規子(環境)
「3つの問題。@資源枯渇、A汚染、B生態系破壊。開発=経済成長という認識が間違い。途上国では先進国以上に整備しなければならない。先進国の援助必要。」
吉中 麻樹(教育)
「UNDP(のレポート)には『教育』という項目はないが、格差を論じるにはどうしても必要。BHNとしての基礎教育という認識。女子・地方といった格差がある。この基礎教育の普及が大きな目標。」
松本 宏昭(文化)
「途上国と先進国の文化の摩擦が起きている。相手国の背景重視の姿勢が大切。なによりも必要とされているのがお互いの文化の統合感。」
林 ゆり(政治)
「@グローバリゼーションによる経済格差。国内不安や内乱が起き、政府が十分な措置を取れていない。A人権が国家主権よりも重要になってきているという現実。アクターは国家。これが駄目なら国際機関、そしてNGO。」
以下はオープンディスカッション。
A 途上国(基調講演)での問題点と解決策
史さんへの質問が相次ぐ。「中国でのこの問題(格差)はどうなのか。」「特定民族の優遇措置はあるのか。」「優遇措置が発展を阻害している可能性は。」「民族は重要問題。どのような政策をお考えか。完全平等かあるいは局地的集中か?」「沿海部から内陸部に税金移転。摩擦の可能性は?」など。 また東ティモール問題も人間安保の定義とのからみで話題となる。いずれも、アクターはあくまでも国家という前提で進行。
B Aの解決策の実行主体は?
フロアーから、政府以外の実行主体は?という問題提起。その答えとして「(分野別の)人間安保同士の対立の可能性がある。その間の調整が必要。」「分野別にアクターは違う。それは同時に成り立つものだが調整も必要。その時に国家というアクターが必要になってくる。」「国家に対比しての市民というアクターがいる。」などが挙げられる。当然、結論は出ず。今後の課題となる。
C 先進国(基調講演)での問題点と解決策
今度は先進国側の問題に移る。先進国での人間安保阻害例を探る。年金破綻や過疎化がその例。自治体が主要なアクターになる。伊藤さんが「市民の参加意識」というキーワードから、国際協力活動は解決策の1つだと提起。お互いの文化状況の理解という観点からも議論になる。
D AとCに共通課題を見出す(まとめ)
今までの議論から、途上国の問題は先進国にとっても自国共通の課題、という共通認識が生まれる。人間安保問題は司会の言葉にこうまとめられた。「途上国はそれが『極度』で弱者に『限定的』、先進国では『軽度』で『広範囲』に横たわっている。問題はどのように制度作りをしていき、そして機能させるかということ。それを程度別・分野別に考えていかなければならないのではないだろうか。途上国・先進国はお互いに学ぶものがあり、そのための関係を築いていくことが重要であり今後の課題でもある。」
以上
記録:平尾英治(神戸大学大学院)